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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)3264号 判決 1977年12月22日

原告

笹川良一

右訴訟代理人弁護士

久保田保

被告

財団法人日本文化住宅協会

右代表者清算人

山澤眞龍

右訴訟代理人弁護士

是恒達見

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

1  昭和五一年三月二五四日開催の被告協会理事会においてなされた、昭和五一年三月三一日に解散する旨の決議は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  被告財団法人日本文化住宅協会(以下被告協会という)は、昭和二五年七月一〇日に設立され、「文化国家建設の一翼を荷うため文化都市の建設並びに適切なる土地に文化住宅を建設し又は従来の住宅を改造して、国民の住宅難緩和を図るとともに、国民の福祉厚生並びに育英関係の施設を建設し、以つて国民の生活改善と健康増進とに資すること」を目的とし、右目的を達するために(1)適切な田園及び海浜地域に宅地を造成し住宅を中心に商店、工場、教育、保健等の建設を含めた文化都市を建設する事業(2)各地方の適当な土地に文化住宅を建設する事業等の諸事業を行なう旨を寄附行為に掲げている公益法人であり、原告は、昭和四五年一月二七日に被告協会の理事に就任して以来、後記解散決議がなされた当時も同協会の理事であつたものである。

2  被告協会は、昭和五一年三月二四日開催の理事会において、寄附行為三一条により「主務官庁である建設大臣の許可を得て昭和五一年三月三一日に解散する」旨の決議をなし(以下、本件解散決議という)、右決議にもとづいて建設大臣の許可を得て昭和五一年三月三一日に解散し、同日その旨の登記を経由した。

3  しかしながら、本件解散決議は次の理由により無効である。

(一) 被告協会は寄附行為三一条において、「この協会は民法第六八条第一項第二号から第四号までの規定によるほか、理事会において理事数の三分の二以上の同意を得、主務官庁の許可を受けなければな解散することが出来ない」と規定しているが、民法六八条第一項三号の破産および四号の設立許可の取消は、もともと寄附行為において解散事由として定めることを要しないから、右規定の実質的な意味は、「第二号の規定によるほか」と定めたことにある。すなわち、被告協会が民法六八条一項二号(事業の成功又はその成功の不能)の規定にもとづいて解散する場合には、目的たる事業が成功したか、あるいは成功することが不能となつたか否かの規定は実際上極めて困難であり、判定できても時期の確定が困難であるところから、これらの困難を回避し解散事由を客観的に定めるため、右事由に加えて、理事総数の三分の二以上の同意を得なければ解散することができない、としたところにある。従つて、被告協会の目的事業の成功又はその成功の不能という事実の発生しない限り、理事会の決議だけで解散をすることはできないと解すべきである。しかるに、後記のように、被告協会にはその目的事業の成功又はその成功の不能という事実は存在しないのであるから、本件解散決議はその前提要件を欠き無効である。

すなわち、被告協会は、設立以来本件解散決議をなすまでの二五年余の間、事業計画を示すだけで一戸の住宅すら建設しなかつたほどであるので目的事業の成功という事業の存在する筈はなく、又、本件解散決議をなした理事会において、同時に、被告協会所有の東京都武蔵野市米軍宿舎グリーンパーク跡地76,541.97平方メートル(以下、本件土地という)を東京都に約六九億円で売却することを承認する旨の決議をなしており、被告協会は右により約六九億円の資金を有することになるのであるから、目的事業を遂行するために要する資金に欠けることなく、従つて、意欲があれば目的事業を遂行することができる状態であつたのであるから、目的事業の成功の不能という事実も存在しなかつたのである。

しかも、本件解散決議は、主務官庁の許可を得て昭和五一年三月三一日に解散する、との期限付解散決議であつて、期限付解散決議は寄附行為に規定されていないのであるから無効である。

(二) 仮に、前記主張が理由がないとしても、本件解散決議は、原告を除く被告協会の理事らが公益法人の理事として、その議決権の行使を濫用してなしたものであつて、無効である。すなわち、被告協会は本件土地を安値で国から売払いを受け、これを前記のとおり約六九億円で東京都に売却しており、代金のほとんどは利益金と称しうる。

ところが、公益法人である被告協会においては営利法人のように利益金の配分を行なうことができない。そこで、被告協会の理事らは(なお、原告は本件の理事会に出席していない。)、あえて目的事業を行なうことを放棄し、被告協会を解散して多額の退職金を受取り、清算人となつて清算事務を担当し、かつ、その残余財産をもつて被告協会と同種の目的を有する新財団法人を設立してその理事となり、理事報酬を受けようと企図し、本件解散決議をなしたものである。かかる行為は、被告協会設立の趣旨精神を躙りんする反公益的行為であつて、そのために議決を行使したのは理事としての権利を濫用したものといわざるを得ず、本件解散決議は無効というべきである。

4  よつて、本件解散決議は無効であることの確認を求める。

二、請求原因に対する答弁

1  請求原因1および2の事実は認める。

2  請求原因3(一)のうち、被告協会の寄附行為に「この協会は民法第六八条第一項第二号から第四号までの規定によるほか、理事会において理事総数の三分の二以上の同意を得、主務官庁の許可を受けなければ解散することが出来ない」旨の解散に関する規定(三一条)の存することは認めるが、その余の主張部分は争う。

右規定は、民法六八条第一項一号にもとづき、寄附行為をもつて同項二号ないし四号に定める法定の解散理由とは別個に理事総数の三分の二以上の同意と主務官庁の許可あることをを独自の解散事由として規定したものであつて、右規定は原告主張のような趣旨の規定ではない。このことは、寄附行為三一条の文言から明らかである。また、寄附行為三一条をもつて被告主張のような法定の解散事由を補充する規定を定めたものとしても、民法六八条一項二号に定める法定の解散事由は依然として存在するのであるから、右のような補充規定を定めたものと解することは無意味である。

被告協会が民法六八条一項一号にもとづいて寄附行為に右のような規定を定めたのは、財団法人には社団法人の如く解散決議を解散事由とする民法の規定はないので、設立当時には予測し難いような解散の必要が生じ、それが民法六八条一項二号ないし四号に定める法定の解散事由に該当しない、という場合にそなえたものであつて、右寄附行為の規定にもとづいてなされた本件解散決議は有効である。

なお、本件解散決議において解散期日を昭和五一年三月三一日と規定したことは、主務官庁の許可がなされるであろう予定日を指定したにすぎず、解散決議の効力に何らの影響を与えるものではない。

また、本件解散決議をした日と解散決議における解散日との間には、わずか一週間の期限しかない。解散の登記は解散決議の日から二週間以内にすればよく(民法七七条)、したがつて、その期限内に解散決議の効力が発生している本件決議は、第三者に特にわるい影響を与えてはいない。(本件の解散登記は昭和五一年三月三一日になされている。)また、清算人は就職した日から二か月以内に三回以上依頼者に対し一定期間内にその請求の申出をすべき旨を公告する義務があるが(民法七九条)決議から一週間遅れた日を解散日としても、右公告には何ら影響を及ぼさないから、利害関係人を害するおそれはない。判例も、期限付解散決議の有効なことを認めている(大判大正二年六月二八日、民録一九巻五三〇頁参照)。

3  請求原因3(二)のうち、被告協会が本件土地につき国から売払いを受け、東京都に約六九億円で売却したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告協会、次のような事情により、止むを得ず本件土地を売却し、かつ本件解散決議をなしたものである。

(一) 被告協会は、昭和二五年一一月八日、国から本件土地および同地上の建物の売払いを受けたものの、国が契約条項の履行をしないため代金の支払いを延ばしていたところ、国は右契約を解除したので、被告協会はその効力を争つて訴訟を提起した。右訴訟は昭和二八年六月に始まり同四四年七月被告協会勝訴の判決が確定するまで実に一六年間を要した。その頃、被告協会は協会の唯一の財産である本件土地を確保することに専念せざるを得ず、また右財産の他何らの事業資金もなかつたため目的事業を遂行することができなかつた。

(二) 被告協会は右訴訟に勝訴して本件土地および建物の所有権移転登記を得たが、これより先、国は昭和二九年以来駐留米軍にその宿舎として本件土地および建物を提供していたので、右勝訴判決確定後も引続き駐留軍がこれを使用していた。そこで、被告協会は国に対し本件土地および建物の明渡義務の確認ならびに使用料相当損害金の支払いを求め、再び訴訟を提起し、右訴訟は昭和四八年一〇月一一日裁判上の和解により終了した。被告協会は和解金として金二二億円を受領し、右金員をもつて被告協会の二〇余年にわたる運営費、本件土地および建物の購入代金、訴訟費用等の債務の弁済に使用した。一方、駐留米軍の引揚げに伴い、昭和四八年二月二六日被告協会にようやく本件土地および建物の明渡しを受けたので、本件土地等の再開発計画の作成を行なう一方、地元武蔵野市に対して協議会の設置を働きかけたりなどした。しかるに、市当局、市議会、市民団体はこぞつて本件土地の緑地公園化を叫び、再開発計画に関する協議にも応ぜず困惑していたところ、昭和五〇年二月二八日、東京都は本件土地を都市計画法による公園特定区域に変更してしまつた。被告協会は東京都に折衝して右公園指定の解除や本件土地の代替地の交付を要求したが、いずれも拒否され、被告協会が本件土地上に住宅を建設することは事実上不可能となり、万策つきた被告協会は遂に東京都にその要請に応じて本件土地を売却せざるを得なくなつたのである。

(二) これより先、前記裁判上の和解をする前後より、被告協会は莫大な価値を有する本件土地を只同然の値段で手に入れながら、二〇数年の間事業計画を示すだけで何一つ仕事をしたことのない休眠法人であり、理事達はこの休眠法人の莫大な財産の上にあぐらをかいて高給をとつている、この財産は国民の血税によつて取得されたものであるから社会に還元すべきである、というような記事が新聞、週刊誌などに掲載されたばかりでなく、国会においてもこれに類似する質問が行なわれるに至つたことから、建設省は、被告協会を解散して新たに同様の目的を有する新財団法人を設立し、右財団に被告協会の財産を寄附する、という構想のもとに、被告協会に対しその解散を助言してきた。

(四) 被告協会は、右建設省の助言にもかかわらず、本件土地を再開発し、本件土地上に都民のための住宅を建設して都民に提供し、また、本件土地周辺の旧来の住宅を転がし方式によつて移転し、より環境のよい住宅を作り、その為に要する事業経費(公共事業経費も含む)は被告協会が負担する計画を立て、この事業計画が実行されたときこそ被告協会に対する前記の如き中傷は霧消する、と確信してその存続を希望した。しかるに、本件土地に対する前記東京都の公園区域指定は被告協会の右悲願を一撃の下に打ちくだき、被告協会の最大の事業目的であつた本件土地に住宅を建設することは実現不可能となつた。また、世論の悪評を一身に背負い信用を失つた被告協会は公益法人としての存在価値を問われ、たとえ本件土地を売却して相当な資金を取得したとしても公益法人として公益事業を遂行することはほとんど不可能と判断するに至つた。

(五) そこで、被告協会は止むを得ず、次善の策として、被告協会を解散し、別に同種又は類似の目的を有する財団法人を設立して、これに被告協会の遺志を承継させ、その実現を企図することが被告協会を生かす唯一の途(発展的解消)と確信するに至つたので本件解散決議をなしたのである。

なお、解散に伴う退職役員らの退職手当金については、昭和五一年三月二四日開催の理事会において、建設省の指導により従前の退職手当に関する規定を遙かに下廻る規定案の承認を求めその決議をなしているから、本件解散決議は被告協会の理事達が退職金めあてになした解散決議であるという原告の主張は失当である。また、解散役の被告協会の残余財産の処置について、寄附行為三二条の定めるところにより被告協会と類似の目的を有する新法人へ寄附する、という理事会の決議は寄附行為の規定を忠実に実行しようとするもので何ら違法・不当の目的を有するものではない。

以上のとおりであるから、本件解散決議は被告協会の理事達が議決権を濫用してなしたものでないこと明らかである。

第三  証拠<省略>

理由

一被告協会が昭和二五年七月一〇日設立された財団法人であり、昭和五一年三月二四日開催の理事会において本件解散決議をなしたうえ、同月三一日建設大臣の許可を得て解散し、その旨の登記を経由したこと、および、原告が右解散決議当時被告協会の理事であつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、以下本件解散決議の効力について検討することとする。

1  請求原因3(一)の主張について

被告協会の寄附行為三一条には、「この協会は、民法第六八条第一項第二号から第四号までの規定によるほか、理事会において理事総数の三分の二以上の同意を得、主務官庁の許可を受けなければ解散することが出来ない」との解散に関する規定が存することは、当事者間に争いがない。原告は、右規定は実質的には民法六八条一項二号による解散、すなわち、事業の成効又はその成功の不能による解散の場合に、事業の成否の判定が困難であるところから、理事会の決議をさらに要するものとした規定であつて、事業の成功又はその成功の不能という事実がない限り、理事会の解散決議はその効力を生じない旨主張する。

しかしながら、民法六八条一項二号ないし四号は法人の法定の解散事由を定めたものであるが、右事由が発生した場合には発生と共に当然に法人は解散するのであつて、寄附行為の規定をもつてしても右各事由による解散の効力発生を理事会の同意にかからしめることはできないと解されること、同条一項二号の定める解散事由の存否およびその発生の時期の判定が客観的に不明確であるという程困難なものではないこと、ならびに前記寄附行為三一条の文言に照らすと、同条は、理事会における理事総数の三分の二以上の同意と主務官庁の許可あることを一つの独立の解散事由として定めた規定と解するのが相当である。

もとより、被告協会の主張するように、財団法人においては、社団法人のように社員総会の決議を解散事由と定めた規定はなく、社員総会も存在しないのであるから、将来の不測の事態に備えて民法六八条一項一号に準拠し、寄附行為に理事総数の三分の二以上の同意を解散事由の一つの要件と定めることも許容されるものというべく、また主務官庁に民法六七条所定の監督権を発動する機会を至えるため、同様に寄附行為に主務官庁の許可を解散事由の一つの要件として定めることも、許容されるものというべきである。

なお、原告は、本件解散決議は、寄附行為に基かない期限付解散決議である旨主張するが、原本の存在および<証拠>に徴し、かつ前叙のとおり、寄附行為三一条が主務官庁の許可をも解散事由の一つの要件として定めていることを考慮すれば、右決議における「昭和五一年三月三一日に」解散する旨の年月日の指定は、主務官庁の許可がなされるであろう予測日に配慮してなされたものということができるのであつて、右のような配慮に基づき、このような短期間の期限を付した解散決議は、寄附行為三一条に依拠したものというに妨げない。

よつて、その余の点につき判断するまでもなく、原告の右主張は理由がない。

2  同(二)の主張について

つぎに、原告は、本件解散決議は、原告を除く被告協会の理事らが多額の退職金を得る等の目的のもとにその議決権を濫用してこれをなしたものである、と主張するが、本件全証拠によつても、右事実を認めるに足りる証拠はない。かえつて、<証拠>を総合すると、被告協会の解散の経緯につき、以下の事実が認められる。

(1)  被告協会は、もともと、戦後の住宅難という状況を背景に、本件土地および同地上に一部被爆されたまま放置されていた旧中島飛行機株式会社武蔵野製作所工場建物を国から売払いを受け、右建物を更生活用して耐震耐火の集合庶民住宅(武蔵野文化住宅)に改装し、住宅難緩和に資することを目的として設立され、設立当初の寄附行為には、右武蔵野文化住宅の建設ならびにその維持経営およびこれに関する附帯事業を行なうことを第一の事業目的として掲げていたこと

(2)  被告協会は、昭和二五年一一月八日、国との間で本件土地および建物を代金七九、六八三、一四三円で売払いを受ける契約を締結したものの、国が昭和二六年一二月二五日附をもつて右契約を解除したことから紛争が生じ、被告協会は、昭和二九年国を相手に訴訟を提起するに至つたこと

(3)  右訴訟は、昭和四四年七月四日上告審において被告協会勝訴の判決がなされたことにより一応の終了を見たが、これに先立ち、国は昭和二九年二月以来、本件土地および同地上の建物を駐留米軍の宿舎としてその使用に供していたため、被告協会は所有権移転の登記を得たにもかかわらず現実に使用することができず、再び国に対して明渡義務の確認と本件土地および建物の使用料相当損害金の支払いを求めて訴訟を提起した。右訴訟は、駐留米軍の引揚げに伴い、昭和四八年一〇月一一日、裁判上の和解により終了し、被告協会は、ようやく本件土地および建物の明渡を受けたこと

(なお、被告協会は、右和解により、約二〇年間にわたる右物件の使用料相当の損害金に相応するものとして金二二億円の和解金の支払を受けたけれども、これを巨額の借入金の弁済や弁護士手数料、運営費等の支払いに充当した。)

(4)  そこで、被告協会は、設立の趣旨に従い庶民向け住宅供給事業の実行に着手すべく、地元武蔵野市に対して住宅建設協議会の設置方を要請する等その協力を求めるべく努力したが、武蔵野市当局をはじめ地元住民や市民団体からは、庶民住宅の建設は生活環境の保全上好ましくない、との意見が強く出され、住宅建設反対・公園緑地化実現運動がおこるに至つた。そして、東京都は被告協会の反対にかからず都市計画審議会に諮り、昭和五〇年二月二八日都市計画法により本件土地を武蔵野都市計画公園第五・五・三号武蔵野中央公園の計画区域に追加する旨決定し、同日東京都告示第二三四号をもつて告示をなしたこと

(5)  被告協会は、右決定後もなお東京都に対し、決定の解除を求め、解除が困難である場合には代替地を交付するよう要求したが、これも拒否され、東京都は本件土地の売却を被告協会に要請してきたため被告協会設立の第一目的であつた武蔵野住宅の建設計画は実行不能となつたこと

(6)  被告協会は前記(2)(3)の如く本件土地および建物の所有権を確保し、その明渡しを受けることを、それぞれ当面の課題としてその実現に専心せざるを得ず、しかも事業を行なうための資金的な裏づけが何もなかつたから、設立以来寄附行為に定めた事業を何一つ行なつた実績がなく、また、本件土地の価格が取得当時と比べて著るしく高騰したなどの事情が重なり、前記国との間で和解をなす前後より、被告協会は莫大な価格を有する本件土地を只同然の値段で手に入れながら何一つ仕事をしない休眠法人であり、理事達はこの休眠法人の莫大な財産のうえにあぐらをかいて高給をとつている、とマスコミ等から非難され、国会や東京都議会で取りあげられる等の事態が生じたこと

(7)  右事実を背景に、建設省より被告協会に対し、本件土地を東京都に売却したうえ協会を解散し、残余財産を同種の目的を有する他の団体に譲渡するよう指導がなされたこと

(8)  かくして、被告協会は本件土地を東京都に売却せざるを得ず、そうなれば右売却によつて約六九億円の代金を得ても、事業達成の障害となる事情が多く、また、前記のように社会的評価の落ちた被告協会がこれ以上公益法人として存続させ事業を遂行することは好ましくない、と判断するに至つたこと

(9)  被告協会は、昭和五一年六月一八日開催の理事会において、寄附行為に新たに三一条の二を追加し、「協会が解散する場合には、清算人は理事の中から理事会の同意を得て理事長が指名する。清算人は五名以内とする」との規定を主務官庁である建設大臣の許可を得て設け、さらに、昭和五一年三月二四日開催の理事会において本件解散決議をなすとともに本件土地を約六九億円で東京都に売却すること、残余財産については寄附行為三二条の定めに従い財団法人日本住宅総合センターに寄附すること、理事に対する退職金については、建設省の社会通念上妥当な範囲内にとどめるようにとの指導に沿い、従来、常勤役員に対しては月額報酬に一〇〇分の四五と在任月数をそれぞれ乗じて得た額を退職金としていたのを、在任月数が一四四以上であつても一四四月で頭打ちとし、非常勤役員に対しては金一〇万円に在任月数を乗じて得た額を退職金としていたのを、在任月数を五〇月で頭打ちとする旨退職金手当支給基準を変更すること、を決議したうえ、清算人として理事一五名のうちから五名を選任したこと

(10)  被告協会が残余財産を寄附することとした財団法人日本住宅総合センターは、「住宅・宅地に関する調査研究及び情報の提供を行うとともに、住宅・宅地に関する諸制度の改善を促進することにより、主として首都圏を始めとする大都市地域における良好な市街地の形成と国民の住生活の安定向上に資すること」を目的とし、昭和五二年三月二三日設立を許可された財団法人であるが、被告協会の理事が右財団の発起人ないし理事に就任した事実はないこと

以上の事実が認められ、甲第四、第五号証および原告本人尋問の結果をもつてしても、右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定の経緯に照らすと、被告協会の理事らは、設立当初の寄附行為の第一の事業目的である武蔵野文化住宅の建設に長年にわたり努力したものの、周囲の事情からその目的を達成することが不可能となり、他に代替地を得ることもできず、また、多額の資金を得ても、他の事業目的を達成するには建設省の意向等多くの障害があり、他方、被告協会に対する社会的評価の低落と相俟つて、被告協会を存続させ、その事業を継続するよりも、他に新財団法人を設立しそこに残余財産を寄附することにより、資金の有効な活用を企図したものというべく、したがつて、本件解散に当り、被告協会の理事らが、故なく目的事業を行うことを放棄したものということはできないし、また、前叙認定の清算人の数の制限、退職金支給基準の変更、新財団法人の発起人および理事の人的構成に徴しても、原告主張のように、被告協会の理事らが多額の退職金、清算人や新財団法人の理事としての報酬を受けることを企図して、本件解散決議に際し、議決権を濫用して行使したものということはできないのである。

よつて、原告の右主張は援用しがたい。

三以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条適用して、主文のとおり判決する。

(柳川俊一 長野益三 川島貴志郎)

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